2007 |
01,11 |
«空の入口»
~レイエ好きの方へ22のお題~ 03『龍』
(お題リンクは横に張ってあります)
龍といえばあのひとなのでしょうが……
重い話しか考え付かなかったので、あえてスルーしました。
代わりといってはなんですが(?)、レッドさんがへたれです(爆)
(お題リンクは横に張ってあります)
龍といえばあのひとなのでしょうが……
重い話しか考え付かなかったので、あえてスルーしました。
代わりといってはなんですが(?)、レッドさんがへたれです(爆)
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その先に目指す景色は。
空の入口
びちびちと激しくくねるそれの周囲、振り撒かれた水滴が、ガラスの粉を撒いたように空気を煌かせている。
「あっれぇ……コイキング?」
草の上で跳ねる、今しがた釣り上げたばかりの朱色の魚に、イエローは目を丸くした。
ここはトキワの森の奥の、小さな滝壷。例によって、人に迷子と見間違えられそうなふらふら散歩の途中、ふと見つけた澄んだ水に誘われてイエローは釣り糸を垂れていた。
そうして欠伸交じりに待つうち、珍しく当たりがきたと思ったら。
「ここって、コイキング棲んでるんだ……?」
首を傾げて、滝壷から出でる流れを見やる。広く生息する魚とはいえ、人間の子供ほどもあるコイキングが棲まうに十分な深さも広さもあるとは思えない。
まだ釣り糸を口に引っ掛けたまま、コイキングは暴れ続けている。びたびたと鰭を打つ湿った音は、残念ながら、ごうごうと唸る滝音に負けてしまっているけれど。
釣り針を外してやろうと向き直り――しばし、イエローはコイキングと見詰め合ってしまった。
(なんだか、このコイキング……迫力あるなぁ)
魚特有の、瞼のないぱっかりと開きっぱなしのまんまるの目。
その目がちょっと三角形に見えるのだ。
びちっ! びちびちっ!
「ああ、今外してあげるからちょっと待ってね」
元々、釣った魚はすぐに放す主義のイエローだ。暴れるコイキングに苦戦しながら、傷つけないように慎重に針を外して……
ぱしょん……っ。ばっしゃん!
――外すなり、あっという間に逃げられてしまった。
そのつもりだったとはいえ、物寂しい瞬間でもある。
しかもきっちり、飛沫の置き土産。前髪からぽたぽた滴を滴らせながら、イエローは誰にともなく、たははと苦笑いした。
「……あれ?」
再び釣り糸を投げ込もうとして――
水面に揺らぐ朱色を見つけた。
幾重にも波紋を描く水面を割って、とげとげした背鰭が現れる。先ほどのコイキングに違いなかった。
背鰭は滑らかに水面を割きながら、白く煙る滝の落下点へと泳いでいき……
飛び出した朱色の身体は、わずかに飛沫を引きながら、その水煙へと飛び込んだ。
「……あっ?!」
見守っていたイエローが息を呑むより早く、朱色の魚は白い怒涛に呑まれて消えた。
森に響くのは、ごうごうと空気を揺する滝音だけ。一匹の魚が跳ね上がる音も、その魚さえも呑み込んで、滝は顔色一つ変えず落ち続ける。
……さぷん。
微かな水音に、傍らに視線を返す。コイキングはいつの間にか、またイエローの近くにまで戻ってきていた。
けれど背鰭の向く先は――再び、滝。
声をかける間もなく、すいすいと波紋を割っていく背鰭。跳ね上がり、押し流される朱色。
ややして、背鰭は再びイエローの傍へ。今度はもう少し滝から距離を取って。
そしてまた繰り返される、小さな戦い。
「……もしかして、おまえ、滝を昇りたいの?」
ぽつりと漏らした問いかけに、応える音はごうごうと、それだけ。
小さいとはいえ、滝壷が出来るくらいの滝だ。高さだって、イエローの背丈の十倍以上ある。
あっと言うまに押し流される魚は、白々と煙る飛沫の一瞬の染みにしかなれない。
なのに……コイキングはめげることを知らず、強大な敵に立ち向かっていく。
何度も、何度も。
それはまったく不可能なことに思えた。
けれどコイキングは、飛び込んでは押し流されて、また飛び込んで……諦めずに、挑み続ける。
滝を昇りきった鯉は、龍になるという。
ふと、そんな言い伝えを思い出した。
この子は龍になりたいんだろうか?
確かにコイキングはギャラドスに進化出来るけど……
考えつつ、滝を仰いでみる。
細かく散らされた水滴が淡く空に霞をかけている。その中に、虹が見えた。
緑が幾重にも空を覆う森の中、その隙間はまるで、空への入口のように開けていた。
虹を潜って、霞を剥ぎ取れば、その空は濃く深い底なしの青に違いない。
「……がんばれっ!」
――いつしか。
掌が薄っすら汗ばむほど、きつく拳を握りこんでいた。
放り出したままの釣竿のことも忘れていた。
そんなイエローの前で、無謀なチャレンジは繰り返される。
この子が何に挑んでいるのか。
何のために滝に昇るのか。
それは分からない。
けれど、一つだけ分かるから。
この子は一生懸命だ。
無謀でも。頼りなくても。――自分がどんなにちっぽけでも。
何かを一生懸命に目指している。
その姿は、なんだか――
「……あ!!」
幾度目かのダイブは、一際高く、力強く――。
白と透明の流れに、朱色が引っ掛かる。
――滝を捕まえた!
「がんばれっ! 負けるなぁっ!!」
応援が届いたのかは分からないけれど、必死に身体をくねらせて、落ちかかる流れをやり過ごそうと戦っていたコイキングの身体が――少しずつ、上に進んでいく。昇っている!
「行けっ……そのまま! がんばって!!」
滝の轟音に負けじと声を張り上げるイエロー。
時には押し戻されつつも、徐々に滝を上り詰めていくコイキング。
そしてとうとう朱色の魚は虹のアーチを潜り抜け――
ざぷん、と、聞こえたのは光景の作り出す幻聴。
朱色の影は一瞬で白い飛沫に呑まれ、消えた。
――その次の瞬間。
ざっぱぁぁ……ん!!
幻聴でない、力強い波音が滝に打ち勝ってイエローの鼓膜を叩く。
そして、虹のアーチの向こう。霞の帳の向こう。
宝石のように煌く飛沫をまとって、空に踊りあがった姿は……
澄みきった滝壷のように碧い、一匹の龍。
「ギャラドス……! あの子、本当に……?」
――ぱしょり。
控えめな水音に視線を落とせば、すぐ足元の水面にぱっかりと開きっぱなしの目が覗いている。
コイキングは、ちゃぷ……と悔しそうに尾鰭を振るわせた。
「……あれ、おまえ? てことは、あのギャラドスは……?」
「うわぁぁぁぁぁあぁぁあああっ?!」
なんだか聞き慣れた声が、ひどく分かりやすい悲鳴の尾を引いて近付いてくる。それも急速に。
見上げれば、迫り来るギャラドスの巨体の陰に、ちらりと赤い何かが見える。
それが何か、判断するゆとりはもはやなかった。
イエローもコイキングも落ちてくるギャラドスの影の中。……と、いうことは。
「危ない……っ!!」
絶叫と重なるように、一際派手な水音が、一瞬滝壷のお株を奪った。
「……いやぁ、ギャラが泳ぎたそうだったんで、ちょっと川下りを……まさかいきなり滝があるなんてなぁ。悪ぃ悪ぃ、怪我なかったか?」
ひっくり返ったギャラドスの鳥の子色したおなかの上で――
一緒に落ちてきた赤色まとう少年は、胡坐をかいて、頭を掻いた。
「大丈夫です。でも、びっくりしましたぁ。レッドさんのギャラだったんですね。てっきりボク、この子が龍になったのかと……」
「この子って、コイキング? それよりもイエローはこんなところで何してたんだ?」
「釣りしてました」
「…………水の中でか?」
「……え?」
――ふと我が身を顧みれば。
イエローは胸まで池に浸かって、コイキングを抱きしめていた。
頭からは盛大な飛沫をかぶって、もはや全身くまなくずぶ濡れだ。
「……あ。これは……この子が潰されちゃうと思って、つい」
「いや、落ちてきたオレが言うのもなんだけど、コイキングは上手く逃げられたと思うぞ。水の中なんだから。それよか飛び込んだイエローの方が潰れるって……」
ほんとーに無事でよかった……と深々溜息を吐くレッド。
それもそうですね、と恥ずかしそうに笑うイエロー。
その腕の中で、コイキングは点のような黒目をぎょろりと回して、じっとイエローを見詰めている。
「ほら。そいつも呆れてるみたいだぜ?」
「あは…………………………えっ?」
「ん、どした?」
「……あ、今……」
レッドに注意が逸れた瞬間、コイキングはするりと腕を抜け出して、池の底へと消えてしまった。
「今?」
怪訝そうなレッド。
コイキングはもう水面に姿を現さなかった。多分、この惨状が落ち着くまで様子を見るつもりなのだろう。
イエローは、ふと、自分の手に視線を落とした。
たった今までコイキングに触れていた自分の手。
伝わってきた、その言葉。
イエローは、眩しそうにレッドを仰ぐ。
「おまえもがんばれ、って言われちゃいました」
それと……と紡ぎかけた続きは、途中で呑みこむ。なんだよと益々不思議そうな顔になったレッドに、呆れられたみたいです、と取り繕いながら、池から上がってワンピースの裾を絞る。
そして――仰ぐ。
きらめかしく立ちはだかる滝と、その頂上に開く空の入口を。
その向こうにあの子が思い浮かべていた景色を、イエローは一瞬垣間見たのだ。
言葉と一緒に伝わってきた、そのイメージ。
それは誰かに伝えるべきではない。
それは、いつかあの子が自分で描き出すべき景色。
「あー……ギャラってば、すっかりのびちまってるよ。悪いんだけどイエロー、こいつ回復させてやってくれないかな?」
「……はい、レッドさんっ!」
横合いからかけられた声に、元気よく返事を一つ。
そしてイエローは、自分の目指す景色を視界に映した。
-fine-
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吐き出せたらいいなぁと思っている。
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