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午月座

小噺修行中。概ね二次創作。カテゴリ要確認のこと。
2025
05,07

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2006
12,22
~レイエ好きの方へ22のお題~ 01『出会いの場』
(お題リンクは横に張ってあります)


ある日森の中出会ったのはクマさんではなかったのです。
でもしきりにあの歌が出てくるのはやはり森の中だからなのかしら。

時節は第三部の途中。

ぽつぽつ書いては消してを繰り返してたら、一ヶ月かかりました……











============================================
ある日森の中ぼくたちは出会った





この森を抜けて





ひとたび道を逸れてしまえば森というものは何処もかしこも同じに見える……
そんななりたての迷子のようなことを、少年はぼんやりと考えていた。

つんと立った癖のある黒髪に、燠のように赤々と輝く瞳の少年。
知る者が見れば一目で分かる、前回のポケモンリーグ優勝者、マサラタウンのレッドだ。
――そこにもう一つ並ぶべきだった肩書きは……先日辞退したばかり。

彼は今、トキワの森をさまよっている。
勿論迷子などではない。

(……この辺りだったと思うんだけど)
広場と呼んでも差し支えない程度に木々の密度がまばらな空間で、足を止める。下草が靴を隠すほどまで伸びるのに十分な陽の差す森の隙間。むせ返る青くさい緑の香。

僅かに瞳を眇めて、記憶のその場所との照合を試みる……けれど。

――同じなような……違うような……。


(さすがに三年前の記憶じゃ……な)


たった一度通りかかっただけの場所。しかも目印も何もあるわけじゃなし。
そんなところを探そうだなんて、正直無謀なのは分かっていた。
それでも、他の手がかりは思いつかなかったから……



探しているのは、記憶のその場所。

――そこに輝く、一つの欠片。





がさり、無遠慮な葉ずれの音に思考回路が中断される。
反射的に腰のボールに手をやり、身構える。野生ポケモンの多いトキワの森、油断禁物はトレーナー必須の心構え。
瞬時に、猫科の獣のようにしなやかに気配を潜め、待つ。がさがさと灌木の茂みを押し分けて現れたのは――


「……えっ、レッド…さん?」


麦わら帽子をかぶった、小柄な少年。お互いに目を丸く見開いて立ちすくむ。
ほう、と緊張が溜息に変わって空気に溶けた。

「なんだ、イエローか……」
「レッドさん…………どう、して……ここに…?」

イエローの肩と足元には一匹ずつピカチュウがくっついている。
肩の方のピカチュウが軽やかに飛びついてくる。彼に預けたばかりの、自分のピカだ。

「よ、ピカ久しぶり! ……ってほどじゃないか。さっきぶり?」

ピカとは対照的にイエローは、人懐こい彼には珍しく、ひどく難しい顔で硬直している。
自分と同じように野生ポケモンの襲撃を危惧して緊張しすぎたのか? ――首を傾げてから、原因に思い至って苦笑した。ついさっき……しかもたったニ、三時間前に見送ったばかりの相手とこんなところで再会したら、そりゃ怪訝にも思うだろう。しかも自分は怪我の療養で、治るまで帰ってこないはずだったのだから。

「ちょっとやり残したことがあってさ、引き返してきたんだ」
「…………」
「タハハ。あれだけ心配しながら送り出してくれたのに、ちょっとカッコ悪ぃな」
「…………」
「はは……」
「…………」
「……あの……もしもーし? なあ、そんなに驚かなくっても…」

あのイエローがちらりとも笑顔を見せないなんて、さすがに不安になってくる。
一歩、そろりと距離を詰めると、小枝でも踏んだのか乾いた音が澄んだ音色で緊迫を割った。

ぴくり、イエローの表情が動いた。
ようやく小さく笑顔が宿る。でもどこかぎこちない。



そういえば。
イエローには最近、こんな顔をさせてばっかりだ。

過去の怪我の後遺症で、少しずつ痺れを増した手足。
それを押してのジムリーダー試験。
それさえも……そこまでしてようやく得たジムリーダーの資格さえも、その怪我を理由に結局は辞退した。

試験前のトレーニングでも、試験の時も、療養への出立の時も。

応援ばかりしてもらって、気遣いは笑い流して、心配をかける一方で――




オレはいつだって自分の都合で精一杯で、大切なことを失念してばかりだ。

――今、この森の中に探している、あの女の子のことだって…。





「ゴメンな、イエロー!」

勢いよく頭を下げると、ええっ? 頭上に慌てふためく声。

「オレ、謝るの忘れてた。散々心配かけて……なのに、投げ出してゴメン!」
「そんな……そんなこと……っ」

身体を折り曲げたまま視線だけ上向けると、困った顔をして、帽子が飛びそうな勢いで首を振るイエローが見えた。

「ボクは応援してただけで……それにレッドさんは怪我をおして、ちゃんと戦い抜いたじゃないですか! 投げ出してなんていないです」
「いや、結局ジムリーダーを辞退したんだからおんなじだ。応援してたみんなの気持ち……イエローのことも、裏切っちゃったな。ホント、ごめん!」



ただ辞退しただけでなく、ジムリーダーはグリーンが努めることになったのだ。

トキワジムのジムリーダーにレッドが就任しなかった、そのことだけが厳然たる事実。
それは結局、約束を破ったも同然。










『真っ先にキミのところに行くよ、最強のジムリーダーとしてね! 
それまで待ってろよ!』










――三年前、自分にトキワジムのリーダーになってほしいと頼んだ、小さな女の子。
あの日、この森で交わした、約束。

もしもあの子がその約束を覚えていてくれたなら――


どれだけガッカリさせてしまっただろう?





「……ここで、謝れてよかった。ありがとなイエロー」
「え…っ?」

イエローの宵闇色の瞳が訝しげに揺れて、何かを探るように赤い瞳をひたと見詰めた。
いつの間にかレッドの肩から飛び降りたピカもイエローの足元に擦り寄って、同じように自分のオヤをじっと見守っている。
もう一匹のピカチュウは、そんな三人をきょときょとと見比べて、不思議そうに首を傾げる。

「オレ、さ。イエローの他にも、謝りたい子がいたんだ。ずっと前にこの森で出会った子なんだ。探してみたけど、やっぱり会えなくって。代わりとか、そんな失礼な理由じゃないけど……でもちょっと気が済んだかもしれない。だからサンキュ、な」

イエローの表情は微妙だった。落胆させたのかもしれない。
確かに随分失礼なことを言っている。けれど、何事にも正直なのがレッドだ。
やがて麦わら帽子の少年が強張った顔のまま、そっと尋ねた。

「……何を謝りたかったんですか?」
「今、イエローに謝ったのと同じこと。約束したんだよ、トキワのジムリーダーになるってさ。――その子にもらった夢なんだ」

イエローが大きく息を呑んだ。

「そんな……その子が言わなくったって、レッドさんはその夢に辿り着いてたはずです」
「そうかもしれない。でもオレにとってはやっぱり、あれがきっかけなんだ。漠然と強さを求めていたオレに、あの子が目標を与えてくれたんだ」


そんなに大きなことだったのに。
なのに、オレは。


「なのに、約束……破っちまったよ」

痛いような笑みを浮べて、それきり――言葉は見つからなくなった。浮かぶのは情けない自責ばかり。

イエローは眉間に皺を寄せて、怒ったようにレッドを見据えている。
ピカは落ち着かないのか、イエローの足元を勢いよく回りだす。





「……レッド、さん」

低く呼ばれ顔を上げると、険しい黒曜の瞳とぶつかった。


「その女の子は、そんなこと気にしないと思います」


……え? 思わず漏れたのは間の抜けた呟き。

「自分の町のジムリーダーになってほしいってお願いしたのは、ジムリーダーが欲しかったからじゃなくて、レッドさんに憧れたから――だから、レッドさんが元気で頑張ってくれる事が一番なんです」

あまりにきっぱりと――
レッドが思わずたじろぐほどに。
イエローは真っ直ぐに告げたあと、……と思います、と声を弱めて付け足した。

「……なぁ、それってオレに都合良すぎじゃない?」
「いいえ、絶対です!」
「……自信たっぷりに言うなぁ」
「勿論ですよ! だって、ボクが言……レ、レッドさんに憧れてるボクが言うんですから、その女の子もきっとおんなじ気持ちです!」

それってどういう根拠だよと――喉を突いた突っ込みは、イエローの表情に氷解して、言葉と一緒にじんわりと胸に沁み込んでくる。
色白の顔を興奮で真っ赤に染めて、じっと覗き込んでくる大きな瞳には、誤魔化しの欠片も見つからなかった。
どこまでも純粋に、自分に向けてくれる、敬慕――
あのときに向けられた、小さな女の子の瞳と同じだった。


真っ直ぐに向けられたものだから、だからあの時も真っ直ぐに自分に届いたのだ。


「……そっか。うん、サンキュ。そう思うことにするよ。その分もっと頑張って、もっともっと強くなる。それでいいんだな?」
「……はい! ……あっ、でも無茶はもう駄目ですよ?」
「うーん、それは自信ないないなぁ……」
「レッドさん!」
「分かった分かった、善処してみる、うん。じゃ、オレ今度こそ行くわ! 話聞いてくれてありがとな、イエロー!」

リザードンをボールから解放して、木立の隙間を縫って空へと駆け上がる。
地上で大きく手を振り続けるイエローの麦藁色に、木々の葉が次々と重なって、やがて完全に森の緑に塗り籠められた。

風の領域から見下ろせば、ブロッコリーを敷き詰めたかのように森はぎっちりと大地を埋めている。こんな中で、いるかも分からない女の子を探すなど自分は本当に無謀だった。


なのに、イエローに会えた。
この偶然を確率で現せば、きっと星の世界の単位に並んでしまうんじゃないだろうか。

多分、縁とか運命とかいう代物は、こういうことを差すのだろう。
三年前のあの日、偶然にあの女の子と出逢ったことと同じように――。


「……あれ、そういえばイエロー『女の子』って言ったな。オレ、そこまで言ったっけ?」

……まぁきっと言ったんだろうな。一人納得して、レッドは行く手に視線と気持ちを切り替えた。
もう、こだわらない。それは忘れるわけでも、約束を反故にするわけでもない。
青を重ね、深く懐へと自分を誘う空。くっきりと濃い緑に、あるいは茶色や萌葱に境界を引いて、どこまでも先へと広がる大地。

自分は躊躇わず、そこへ向かって行くだけだ。















「……ああ、びっくりした……」

へたん、と膝から力が抜けた。
レッドと、彼の駆るリザードンの焔色の巨体が完全に視界から消えるまで……消えてもしばらくの間手を振り続けていたイエローは、糸が切れた操り人形みたいに草の上にへたりこんだ。
ピカが責めるように鳴く。チュチュはきょとんと首を傾げるばかり。
何故ならチュチュは……チュチュも、知らないから。

「怒らないでよピカ。だって、あんな話されたら、もっと言えるわけないよ……」



――その女の子は、このボクです、なんて。



深呼吸して空を仰いだ拍子に、麦わら帽子がぱさりと落ちた。
押し込められていた長い束ね髪が木漏れ日をきらきらと反射させながら、肩に、背に零れて、ゆるやかに流れた。

たったそれだけで、がらりと変わる印象。


「この場所で……また、レッドさんと会えるなんて。しかも、ボクのこと覚えていてくれたなんて……」


ましてや、あんなに重要な意味を持って。

それはまるで流れ星を胸で受け止めたみたいに熱くて、ぴかぴかしていて、壊れそうで、息が出来ない――そんな衝撃。
つんとこみ上げてくる痛みに鼻を啜ると、ピカがぺろりと頬を舐めた。腰では一つのボールがかたかたと揺れた。初めて友達になったポケモン、ラッタのボールが。





少年は――いや、少女は。


確かに昔、この場所で、誰よりも眩しく、胸をときめかせる存在に出逢ったのだ。
それは、赤い色を纏った少年の姿をしていた。

野生ポケモンに襲われた自分を助け、ポケモンとの関わり方を説き……初めてのポケモンの友達を得られたのも、そのとき彼が方法を教えてくれたからこそ。
イエローの前に、いくつもの新しい世界を魔法のように開いてくれたのが、レッド。

彼と出会ったあの日は、ただ迷い込んだだけだった。
けれどあの日から、この変哲のない森の一角は、イエローにとって意味を持つ場所になった。
――あれから時折、イエローはこの場所に来てレッドを思い出した。たとえば、何かに挫けそうになったとき。例えば、力が、勇気が欲しいとき。それはレッドと再会するまでの二年間も、改めて知り合えた今も。だから今日だって療養へ向かうレッドを見送った後、気付けばこうして……。


……いや、違う。
再会は、していない。

あの女の子はずっと隠れているのだから。


イエローは、さっきからしきりに心を探るように見詰めてくるピカと、もどかしげにボールをゆすり続けるラッタを、そっと撫でた。
全部知っているのは、まだ彼らだけだ。自分は今日知ったばかりのレッドの想いをもピカは知っていたから、余計もどかしいのだろう。
何故、と非難がましい視線にこたえる言葉は一つしかない。臆病だから。偽りの姿で築いた関係は砂のお城。それが壊れるとき、土台にある大切な想い出も一緒に壊れて呑み込まれてしまうんじゃないかと……。
そんなことない、そうピカも励ましてくれる。自分もそう思えるときもある。
けれどまだレッドの前に立つと、麦わら帽子を外せない。

「でも……ねえピカも、ラッちゃんも。まだレッドさんには内緒にしておいてね。いつかは……いつかはちゃんと、ボクが自分でレッドさんに話すから」



だって、わたしだって伝えたいもの。

ここであなたにもらった全てのことを。たくさんのものをありがとうございます、と。





その日が遠いのか近いのか、イエローにはまだ分からない。
ただ、その大切なたくさんのものを決して失わず、しまい込むこともせず、しっかりと抱えていこうとそれだけは決めている。















すべては森の中にひっそりと隠されて。
秘密の暴かれるそのときに、出会いが別れに変わらぬように……今はまだ息を潜める。

――けれど、いつかは。


いつかはきっと、この森を抜けて。










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吐き出せたらいいなぁと思っている。

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