2006 |
11,14 |
«麦わら帽子の下に»
『ポケットモンスターSP』、レッドとイエローのお話。
時間としては、ゴールド・シルバー編の少し後くらい。
抽象的過ぎてよく分からなくなっちゃった一人称運びです(爆)
未熟極まりないですが、昨日の反動でほのぼのを……。
この二人は本当は、ダブルで天然&鈍感さん。
時間としては、ゴールド・シルバー編の少し後くらい。
抽象的過ぎてよく分からなくなっちゃった一人称運びです(爆)
未熟極まりないですが、昨日の反動でほのぼのを……。
この二人は本当は、ダブルで天然&鈍感さん。
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この帽子の下には。
麦わら帽子の下に
「なぁ、なんで麦わら帽子取らないんだ?」
「……うひゃ?!」
目を開けると視界一杯にレッドさんの顔があって、ボクは寄りかかっていた木の幹にドシンと背中を打ちつけた。
「あ、わりぃわりぃ。驚かせちゃったな」
人懐こく笑うレッドさんの顔は、以前とちっとも変わりなくて。
……でも時々、はっと思い出したように距離を取られたりして。
今もレッドさんは、少しだけ顔を赤らめてボクから一人分くらいの距離を置いて、胡坐をかいた。
この麦わら帽子をレッドさんの前で取ってから、ボクたちの間で変わったことといえば、それくらい。
あれから、ボクはレッドさんの前で帽子を外したことはない。
今日だってレッドさんに会う用事があったから、ボクはしっかり麦わら帽子を被ってきた。
ポニーテールを帽子の中に押し込めて、ズボンにブーツにハイネックシャツ。
正体がバレてしまった今、もう男の子のフリをする必要はないんだけど。レッドさんに会うときは、ついいつもこの格好。
「見つからないと思ったらこんなところで寝てるんだもんな」
「本当、いつの間に寝ちゃったんでしょうね。あはは…」
「ホント、イエローって呑気だよなぁ」
穏やかに笑うレッドさん。
穏やかにそよぐトキワの森の風。
だから、変わる必要なんてないんだって、思えるんだ。
「で? なんで取らないんだ、麦わら帽子?」
……そういえば、そんな質問されてたっけ。
「うーん、癖みたいなもんです。これがないと、もう寂しくって」
嘘じゃ、ない。
「でもイエローって髪長かったよな? ……一度しか見てないけど。なんでいつも隠してるんだ? バトルするとき邪魔だからか?」
今度はボクのほっぺたが赤くなった…と、思う。自分では見えないけど。
レッドさんの頭の中に、今、帽子を取ってるボクがいる。
――それだけで、心臓が穏やかじゃなくなった。
「えーと……まあ、それもあり…ます」
これは、嘘。
「じゃあ切っちまえば?」
さらりと提案するレッドさんに、心臓の辺りがつくりと痛む。
この麦わら帽子の下にしまってるのは。
……隠しているのは。
髪の毛だけじゃ、なくて。
変わらないから。
穏やかなままだから。
でも少しだけ、変わってしまった距離があるから。
変わる必要がないなんて、嘘。
これ以上、変わりたくないだけなんだ。
そうして隠して、しまいこんで。
なのに、切り捨ててしまうことは出来なかった。
このポニーテールに結わえた髪と…。
――女の子の、自分。
「……切ったほうが、いいんでしょうか」
「んー、長いままのトレーナーも結構いるぜ? ブルーもそうだし。イエロー自身がめんどくさくなければ構わないんじゃないか?」
「めんどくさいとは思いませんけど……邪魔になったらって、怖いんです」
「ふうん? 邪魔になるのか、やっぱり…」
邪魔になったら、レッドさん変わってしまうでしょう?
「……レッドさんは、長いのより、短い方がいいですか?」
「そりゃ短い方がいいさ!」
――気持ちいいくらいの、即答。
思わず目を瞠って、瞬きしてしまった。
結構、ショックだった……。
だってレッドさんは、ボクの正体をもう知ってるのに。
……なんて。
女の子の自分を見せないようにしてるくせに、こんなときだけ非難するボクはズルイ。
いろんなことでしょんぼりしているボクには気付かず、レッドさんは当たり前じゃん、と寒そうに自分の両腕を抱いた。
「だってオレ長髪似合わねーもん! 考えただけでゾッとするよ」
「………………はい?」
「だから、長髪。オマエ似合うと思う? このオレに?」
……そういえばレッドさんは天然だった。
「……思いません」
「だろ? ったく、変な質問するなよなぁ! 鳥肌立つかと思った…」
そこまで似合わないとは思わないけど。
心底気持ち悪そうな顔をしていたから、ボクは余計なことは言わずにいた。
――いた、ら。
「でも、イエローは似合ってたよな」
いきなり、さらりと渡された笑顔に。
ボクはやっぱり目を瞠って、瞬きをした。
「………………はい?」
「だから、長髪。一度、しかもあんなバタバタした時に見ただけだけどさ」
レッドさんの頭の中に、今、帽子を取ったボクがいる。
「イエローの髪ってさ、お陽さまの色じゃん? それがキラキラ流れてて、キレイだったな」
――ボクの心臓は、穏やかじゃなくなる。
「なぁ、たまには麦わら帽子取ってみたら?」
さらりと提案するレッドさんに、心臓の辺りがきゅうっと苦しくなって。
……鼻の奥が、つんとした。
「え? うわっ! オレ何か悪いこと言ったか?!」
慌てふためくレッドさんには申し訳なかったけど、痛む鼻の奥から次々と熱いカタマリが送られて、目から零れるのを止められない。
「な、泣くなよ……なぁ、オレやっぱり変なこと言ってたかな? よく『女心が分からないヤツ』って叱られるんだよ、ブルーとかカスミとかに…」
弱り果てた声のレッドさんには本当に申し訳なかったけど。
その言葉にますます胸の中が、熱い何かでいっぱいになる。
ボクは、しまいこんでしまったのに。
レッドさんの頭の中には、もう、ちゃんといた。
女の子の、ボクが。
「……取った方がいいでしょうか?」
背中をさするために詰めてくれた近い距離で、レッドさんを見上げる。
レッドさんの顔が少し赤くなったけど、今回はこの距離のままでいてくれた。……ちょっとだけ仰け反ってたけど。
麦わら帽子を取ってから、ボクたちの間で変わったこと。
――それは、ボクが気付いてなかっただけで。
もう、全部が。
頷いてくれたレッドさんの笑顔は以前と変わらず人懐こくて。
だからボクは、もう怖がらずに。
麦わら帽子に手をかけた。
-fine-
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吐き出せたらいいなぁと思っている。
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