2006 |
09,09 |
«開幕!»
おはなたち10月号のネタバレがほんのり入ってる……かな?
果てしなくオバカなギャグ。
兄上が頑張ってます。
旧風小噺修練場から移設しました・
果てしなくオバカなギャグ。
兄上が頑張ってます。
旧風小噺修練場から移設しました・
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「あっ、お久しぶりですねえ斉藤さん!」
朗らかに声をかけられたその人は、ぴくりと肩を震わせた。
うっかり反応してしまったことこそがこの世の大敵とばかり、不機嫌一色の心を能面のような顔で隠してくるりと身を返したのは、三番隊組長。
対して朗らかに声をかけたその人はにこにこと見ている方が気が抜ける笑顔。こちらは一番隊組長。
時は夕刻。屯所は幹部棟の廊下。
ちりりと一瞬空気が焦げたような気がした――少なくとも、三番隊組長の方では。
開幕!
「勤務割が改まってもう五日ですか。ほんっとーに全然会いませんよね」
「……聞きたい事があるなら、はっきり言ったらどうだ」
挨拶より早く斬り込んでやると、敵は早くも狼狽の態。
「な、なんのことですよ?」
頬に一筋流れる汗がまざまざと正体を現しているというのに、白々しい。
「神谷は元気だ。俺の下で頑張っているぞ」
ぴくりと頬の筋肉が動いて笑顔の質が変わったのは、当人無自覚だろうか?
ふふん、沖田さん。それは作り笑いというんだ。
久しぶりに斉藤さんに出会った。それで声をかけずにはいられなかった、ただそれだけだったのに。
さっきまでのうきうきした気分はいつの間にか何処へやら。
「神谷さんはいつも元気ですからね」
語尾が間延びしない。短く切れる。
ああ、もうちょっといつも通りに話さないと苛々してるのがばれる。
「アンタも組長なら理解してるだろう。俺達に『いつも』はない。明日には命を落としてるかもしれない境遇だ。だというのに暢気なものだな」
「斉藤さんの組下ですからね、そこは信頼してますよ」
にっこりと笑顔。
……戦場で見せる類の。これは神谷に何かあったらただじゃおかんという脅迫か?
「言われずとも、神谷は俺を信頼してくれているから大丈夫だ」
「そうですね、斉藤さんを兄として信頼しきってますもんね」
……ぐ、沖田さんの剣同様、斬り返しが早く深い。
ふ、この男も本気になったという事か。
だがまだまだ、この分野においては俺に一日の長がある。
「だからこそ、懐にも入りやすいというわけさ」
……ふふふ、沖田総司! 今の一瞬の表情、俺は見逃さんぞ!
ここで一気にトドメといくか。
「昨夜はアイツが寒いと言うので、俺の懐を貸してやったがな」
ふ、懐って……?!
かか神谷さんたら、そんな接近したら秘密がばれるじゃないですか!
「そ、そんなこと神谷さんがするわけ……」
………………なくは、ない。あの人は無防備だから。
「く、組長としてそういう甘やかしはどうなんでしょう?」
「言われる筋合いはない。新選組で一番神谷に甘いのはアンタだろうが」
「ぅ…………」
甘いのは神谷さんにというか、自分に対してなような……いやいや、反省は後にして。
……本当に神谷さんは斉藤さんの懐を借りたんだろうか? そして、温めて……?
……………………。
…………なんだろう。刀を抜きたくなってきた……。
む、いかん。からかいすぎたか。沖田さんのやつ、蒼白を通り越して目が据わってきた。
一気に決着をつけてしまいたい気もするが、沖田さんとの勝負は神谷でつけるのであって、断じて刀ではいかん。
というか斬ったら神谷に嫌われる。
「沖田さん」
「……なんですか、斉藤さん」
ゆらり、と陽炎がゆらめく幻覚。危ない危ない。この男、初心者だけにキレるのも早いか。
「冗談だ」
………………。
「……………………は?」
「だから冗談だ、今の話は」
次の瞬間見せた安堵の笑顔に、またこの男を斬りたくなった。
我慢だ斉藤一。
あまりにもしれっと言うので、聞き流しちゃいましたよ一瞬。
「……なんだってそんな嘘を」
脱力しきった頬は自然と緩む。こんな私の反応に、斉藤さんの額に青筋が一つ。
今なら察します。こういう時の斉藤さんの気持ち。
つまりはさっきまでの私のようなものなんですよね。
「アンタがまだ余裕を見せようとするからだ。これからはこういう事態も有り得ると、その肝に銘じて覚悟しておけ」
「はいはい。もう斉藤さんたらイケズなんだからあ」
……あ、青筋がまた一つ増えた。そうか、この返しなんですね。
いちいち腹を立てるということは、斉藤さんもまだ責めあぐねていて進展なしということですよね。
声にいつもの調子が戻ってくる。本当に私は調子がいいな。
ああっ! この男本当にムカつく…っ!!
自分がいつまで余裕でいられると思っているんだ?
これ以上話していると本当に斬りかねないので、話を切り上げて踵を返す。
「これ以上アンタに構ってられるかっ」
「そんなあ。冷たいんだから斉藤さん~」
ああっ!! あの暢気な言い回しが心底ムカつくっ!!
自分がいつまで余裕を見せていられると思ってるんだ?!
くるり、足音も高く去りかけた踵が再び返された。
「……沖田さん」
「はい?」
「アンタいつまで余裕を見せていられると思ってるんだ?」
いつの間にか斉藤さんの額からは青筋が消え、口の端がにやりと上がっている。
「同じ息を潜めるにしても、気配を殺す為と耳をそばだてる為では、随分違うんだ。……アンタの気配は感じている、毎晩な」
…………勝ち誇ったような鼻息の荒い笑顔に顔面に血が昇るのがはっきり分かる。そして再び覚える謎の殺意。けれど――。
「案ずるな、神谷はまだ気付いていない」
足音と笑い声(幻聴ではないと思う)高く去っていく斉藤さんの背がなにやら霞んでいくのは気のせいではない、と思う……。
ああ……斉藤さんて今までこんな気持ちだったんですね……。
そして一番隊組長は涙の海に沈んだのでした。
勝負あり!
前哨戦:×一番隊組長 対 ◎三番隊組長
(決まり手『この分野においては俺に一日の長』)
ちなみに本戦(対神谷)の均衡にはなんの影響も与えないと予想されます。
〈了〉
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吐き出せないまま積もりに積もった妄想がいっぱいあって困っている。
吐き出せたらいいなぁと思っている。
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