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午月座

小噺修行中。概ね二次創作。カテゴリ要確認のこと。
2025
05,07

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2006
08,01
暗めの話が零れ落ち。
そして宮間さんて、誰。

旧風小噺修行場からの移設です。






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慈悲は要らず





眼前に横たわるのは、ひゅうひゅうと風音を鳴らすひと。
闇色の隊服の上でも、それと分かるほどの赤に染まって。ごろりと地面に横たわって。まだ微かに上下する胸。それに合わせて、ぱっくりと裂かれた喉からひゅうひゅうと風が漏れる。それは最期に伝えたかったであろう音を乗せるはずだった空気。
数拍前まで同士であったその人は、一秒ごとに色褪せていく瞳に苦しげに涙を湛えていた。
「宮間さん、しっかりしてください!」
セイは隣に膝をつき、飽くことなく鮮血を吐き出す喉元へ手拭いを押し当てる。――それが最早徒労であることは誰の目から見ても明らかだった。
巡察中の不幸。それはあるいは腕の差。あるいはわずかな運の作用。
それに引っ掛かってしまった者が今日は仲間内にいただけの話。

不規則に紡がれる風音が痛々しく、セイはそれを和らげようと必死で傷口に手拭いを巻く。
ふと、忙しく動くセイの手を大きな手が包み、やんわりと動きを止めさせた。――その手も赤まだらに染まっていたが。
「神谷さん、介錯を」
やさしい声音で告げられる、死の宣告。
「……もっ! でも宮間さんはまだ生きてます…っ!」
生を訴える声はまるで駄々っ子のそれ。
責めるように見上げたセイに、総司は穏やかな表情で首を振った。
「せめて苦しみを短くしてあげましょう」
すらり、と総司が白刃を抜き放つ。
宮間の唇が音を発せないまま、けれど意味をもって動いた。
その形がセイにはひどく口惜しく、虚しかった。

そして宮間の生は慈悲の元、閉じた。





「神谷さん」
ちん、と刀が鞘に納められる音。
「辛くても」
短く、総司が言葉を落とす。
「私の時にはあなたが介錯してくださいね」
柔らかな、いつもの語調。きっと微笑んでいるのだと手に取るように知れた。
「そんな残酷なことを仰らないでください」
「はは、ごめんなさい。でもあなたに送ってもらえるなら、私はきっと悔いなく逝けますよ」
「清々しく散ってどうしますか! そんなに楽に逝かせて差し上げなど致しません。近藤局長の為に這ってでも生き延びてくださいっ」
吐き出して、ぎっと睨み上げると案の定へらりとした笑顔が待っている。
……この男は。
誠の為にいくらでも投げ打てる命を持ちながら、投げ打ったが最期、執着せずあっさり旅立てそうで。
肩を竦めて、分かりましたよと微笑むけれど。本当に分かったのかと問い詰めたくなる。

この人は立場も、精神も、あまりにも武士で。
だから、私は。

「私には介錯は不要ですから」
おや、と首を傾げる総司にセイは勇ましく宣言する。
「殺したって死なない鬼に、私はなります。私が私を諦めない限りは絶対に生き延びますから、どうぞ早合点して介錯などなさいませんよう」
「神谷さんたら漢らしい……」
「そうお思いなら先生も漢になってください」
「どうも私の分まで神谷さんが漢らしくなってくれてるような」
「馬鹿言ってないで仕事してください。私は他の怪我人を」
軽口を叩いて去っていく背中に送るのは溜息と、決意。
そしてもう一度見下ろす、いまや動かぬかたまり。

かたまりに変わり果てるその瞬間まで。
意志の元、指の一本でも動かせるならそれだけでも。
この命は最期の一欠片まで沖田先生の為に。

修羅を生きるあなたの危難を一つでも多く引き取る為に。
私は這ってでも生き延びてやる。










<了>
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吐き出せたらいいなぁと思っている。

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