2006 |
09,09 |
«東雲»
ちょこっと、おはなたち10月号のネタバレが入ってます。
総司さん物思い。
旧風小噺修練場から移設しました。
総司さん物思い。
旧風小噺修練場から移設しました。
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すっきりと目覚めは訪れた。
朝に付き物の倦怠感も、まどろみへの欲求もない。
不思議なほどに、開けるように始まった、その朝。
東雲
「……あれ、珍しいっすね、沖田先生がもう起きてるなんて」
階段に腰掛けてなんとはなしに空を眺めていると、聞き慣れた声が下からかけられた。なんだか少し掠れているけれど。
「おはようございます、相田さん。あ、山口さん達も。お帰りなさい。ゆっくり飲めました?」
「はぁ……まあ。神谷の壮行会…だったんですけど、その当人が来てくれなかったんで結局ただヤケ酒しただけでした」
「あらら、それはお気の毒に。付き合い悪いですねー、神谷さん」
「先生がそれを言いますか。先生が来てくだされば、アイツだって来てくれましたよ……」
じとっと目線を向けられたのは曖昧に笑って流した。
それを分かって、あえて行かなかったんですもん。
「綺麗な空ですねえ」
視線を空に戻す。
薄紫色に染まりつつある薄明の空。漏れ始めた薔薇色をいち早く映した雲が鮮やかにたなびいている。
「そうっすか? いつもと同じっすよ」
気のなさそうな相田さんの声。
「いつもよりも、ずっとずっと鮮やかですよ」
賛同は返らない。
それでも景色は輝きを損なうことなく、私の胸を昂ぶらせる。
「……なんでそんな笑ってられるんですか?」
訝しげな声に、もう一度視線を落とす。徹夜明けのせいか、相田さん達は不機嫌そうだ。
「あ、帰営したばかりなのに捕まえちゃって申し訳ありません。もうそろそろみなさん起き出すと思うんで……」
「違いますよっ。かみや……神谷、離れちまうんですよ? 寂しいとかないんすか?」
どこか噛み付くような言葉と、恨めしそうな眼。予想外の展開に、きょとんとそれを受け止める。
「まあ、寂しいは寂しいですけど。別に新選組を離れるわけじゃないですし」
「全っ然、寂しそうに聞こえませんよ! ……前に神谷が総長付きに移動になったときもそうでしたけど……先生って、淡白ですよね」
徐々に小さくなる声は苛立ちと諦めを隠そうともしていなかった。
……あの時はあの時で理由があったし。
なんて、相田さんに説明は出来ないし、する気もない。
それは隠すべき秘密ではなく、守るべき秘密。
だから自分もあんなに必死だったのだと、気付いたのは昨夜。
だからこそ、今日の景色はこんなに鮮やか。
「離れるわけじゃ、ないですもん」
重ねて呟いた私に返るのは、まだ物言いたげな不服気な視線。
理解してくれなくていい。
その方がいい。
誰よりも、いつよりも、この胸を満たしてくれるあの人の存在を。潤い、昂ぶる心を。
誰かと共感したいなんて思わない。
「……本当に、綺麗な朝ですねえ」
心を満たすものが、見えるものも感じるものも塗り替えるのだと。
それを知った格別の朝。
〈了〉
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吐き出せないまま積もりに積もった妄想がいっぱいあって困っている。
吐き出せたらいいなぁと思っている。
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