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午月座

小噺修行中。概ね二次創作。カテゴリ要確認のこと。
2025
05,07

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2006
08,08

«答えは»

総セイ。
最初の一言から勢いで。
まとまりのない文章に仕上がっております。
(人それを仕上がってないと言ふ)

旧風小噺修練場から移設しました。






=============================================





答えは





「どうして?」

問うと、神谷さんはさっと頬を朱に染めた。
「……お話する義務は、ありません」
拗ねた子犬のような、むくれる子供のような可愛らしい顔で、ひどく硬い声を出す。真っ直ぐなこの子が珍しく視線を逸らしたまま、私の顔を見ようともしない。
回り込んで少し屈んで覗き込むと、吃驚したように瞠った黒い瞳とようやく視線が絡む。
その頬を両手で挟みこんで、今度は逃がさない体勢を整えた。


「どうして逃げるんですか?」





それは久しぶりに設けられた置屋さんでの宴会で。
日頃の激務を労う為、と近藤先生が計らってくれた宴会は酒食も贅沢な上、芸子さんも招いた華やかなもので。
久しぶりにみんなで騒ぐ席はそれは楽しく、先程までは神谷さんだって上機嫌だったのだ。
なのにいきなり神谷さんの顔色が変わったのは、多分――

「待って、待ちなさいったら神谷さん」
突然宴席を立った神谷さんに追いついて、やんわりと肩を掴んでこちらを向かせた。俯いたままの神谷さんの表情は、切り揃えられた前髪に隠れてよく見えない。
「あんなに邪険に席を立ったら、あの芸子さんだってきっと気分を悪くしましたよ? そりゃあ、あの人あなたに抱きつかんばかりだったから、秘密がばれるかもと焦る気持ちは分かりますけど……ちゃんと私が隙を見て逃がすつもりでいたのに」
「……抱きつかんばかりだったのは、先生のお隣にいたひとの方じゃないですか……」
「え? 何か」
ぽそりと落とされた言葉はあまりに小さくて、うっかり聞き落としてしまう。けれど真一文字に引き結ばれた神谷さんの唇は、同じ言葉を紡ぎ返してはくれない。
ようやく開いたそれから滑り出たのは、きっぱりとした拒絶。
「酔いが回っただけです。少し醒ましてきます。失礼します」
そして私の手を払いのけて、脇をすり抜けようとする。

その身体を、横抱きに止めると。
初めて神谷さんが私の顔を見た。

戸惑うように瞠られる、一対の黒曜。

すぐにそれは逸らされてしまった。――どこか辛そうに顰められて。
「……離してください」
「嫌です。神谷さん、あなた少し変ですよ」
「だから酔いが回って……」
「言うほど呑んでないのは知ってます。何をそんなに怒ってるんですか」
「怒ってなんか……ただあそこにいたくなかった、だけです」
か細く、消え入りそうに萎む声。
そこには神谷さんが言うように怒気はない。
――ただ、なんだか今にも泣き出しそうな声で。その響きに胸の辺りがきゅうと痛む。
「どうして?」
問うと、神谷さんはさっと頬を朱に染めた。
「……お話する義務は、ありません」
拗ねた子犬のような、むくれる子供のような可愛らしい顔で、ひどく硬い声を出す。真っ直ぐなこの子が珍しく視線を逸らしたまま、私の顔を見ようともしない。
回り込んで少し屈んで覗き込むと、吃驚したように瞠った黒い瞳とようやく視線が絡む。
その頬を両手で挟みこんで、今度は逃がさない体勢を整えた。
「どうして逃げるんですか?」
「逃げてなんか……」
「あそこにいたくなかったんでしょう? そして今も、私の目を見ようとさえしなかった。逃げてるじゃないですか。どうして?」

……神谷さんが諦めたように息を吐いた。
けれど状況に甘んじた代わりに、その瞳は閉ざされて。

そうやってこの子は、どうして私から逃げるの。

ようやく吐息以外に滑り出た音は、不思議なことを問うてきた。
「……それは、組長命令ですか?」
「は? いや、別にそういうわけじゃあ……」
だって宴は無礼講の場で、しかも幹部に失礼を働いたなどというわけでもない。
それに隊務以外で上司と部下を意識した事なんて、正直なかった気がする……少なくとも、最近は。
「命令なんかじゃなくて、気になるから聞いたんです。それじゃ駄目なんですか」
何故か少しだけ荒くなった自分の声に、驚いた。


すっ、と。
開かれる、黒。
不意に真っ直ぐな瞳を向けられて、不覚にも息を呑む。




「どうして?」




「……え?」
――たった一呼吸奪われただけで。
言葉を失ったのは、私。問う声はいまや、あなた。
「どうして、お気になさるんですか」
「……それは…………」
あんな風に席を立つから、とか、あなたの様子が変だったから、とか――次々と答えが浮かんでは、声を成さないまま沈んでいく。

どうして?
私の理由は明瞭なはずなのに、どうして私は答えられないのだろう?

神谷さんの瞳を覗き込むような姿勢を後悔した。
私の答えはすべてその中に吸い込まれていくようで。

「どうして、私を追うのですか?」

視線も、問いかけも、絡み合って逃げられないまま。
いつしか失われた私の声も、同じ言葉を私に向ける。



どうして?



――どうして、この子は。

――どうして、私は。

――どうして、この子を?





……答えはあなたの瞳に吸い込まれたまま。










<了>
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吐き出せたらいいなぁと思っている。

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