2006 |
06,27 |
«眩暈»
総セイ。現代設定。
切なく甘く。
トシさん友情(?)出演。
旧風小噺修行場からの移設です。
切なく甘く。
トシさん友情(?)出演。
旧風小噺修行場からの移設です。
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眩暈
「せんせい?」
ふわりと笑う彼女は、眩暈がするほどに愛らしい。
「おまえあの世でも神谷のことばっか考えてたって面だな」
いつだったか、土方さんが呆れて笑ったっけ。
あのとき、私は真顔で返した。
「あの世でのことなんて覚えてませんよ。私の記憶は――あの療養の日々と、白く霞んでいく神谷さんの笑顔と、その全てを包む闇と……その次はもう今生なんですから」
「ああ、ドーナツ十個平らげて親に殴られたって記憶だろ。確か三歳んときとか言ってたか」
おめえの甘味馬鹿は死んでも治らねえな、と土方さんは失礼にも盛大な溜息を吐いた。
そう。死んでいた時間の記憶など、ない。
生きていた頃の記憶が今の生に繋がれていて、あの死の床の後悔から……狂おしいほどの愛しさから、私は始まった。
――なら、神谷さんは?
私が逝った後も生きていたはずのあの人には、私の知らない人生があって。その終わりからあの人の今が始まっているとすれば。
あの人を、今も私の隣に留めておいていいのだろうか。
「あの人何も話さないから、その後のこと……」
真剣に悩んでいるというのに――土方さんの返事は拳骨だった。
「ったぁ……何するんですかっ」
「まったく、野暮天も死んでも治りゃしねぇな」
「……そんなことないですよ。今の私は……ちゃんと分かってます」
だからこんなにあの人のことを考えてしまうというのに。
「ばぁか。おめえが分かってんのはおめえの気持ちだろ。そんなんはなぁ、野暮天よりももっと前の段階なんだよ、ガキが」
土方さんは鼻先で笑い飛ばした。
「神谷のことも察してやれ。野暮天も大概にしねぇと、今度こそ捨てられるぞ」
「神谷さんのこと……?」
そんなこと言われなくとも理解している。
あの人が、あんなに幸せそうな笑顔を、私だけに見せてくれる理由。
それが私の自惚れではないと、やわらかく抱きしめて教えてくれた。
「だったら今更、昔のことなんざ聞く必要ねえだろうが」
「……でも気になっちゃうんですよ。あの後、あの人が幸せな人生を送れたのか。それだけが私の願いだったんですから」
……あの人が誰かに嫁いだと聞かされたら耐えられないかもしれないけれど。
それでも、あの人が笑って生きてくれたのか、知りたかった。
そんな私に。
バカヤロウ、と。今度こそ土方さんは本気で怒った目で吐き捨てた。
「今生でもおまえを選んだんだ。おまえと一緒だったとき以上に幸せだったわけがあるか」
――その言葉はどんな刀よりも鋭く私の胸を斬り裂いた。
はらはらと剥がれ落ちる愚かな願いの向こう、浮かんだのは愛しいあの人の姿。
(せんせい)
再会が叶ったとき、大きな瞳からぼろぼろと涙を零して。大きな目と小さな鼻を真っ赤にして、綺麗な顔をくしゃくしゃにして。
(逢いたかったです……ずっと……ずっと…………っ!!)
捕まえ損ねたら、泡になって溶けてしまいそうなほど。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……喜んで。
躊躇いもせずに、私の手をとった神谷さん。
それが今生での私たちのはじまり。
あなたは。
あなたの人生は続いたけれど、あなたの心は。
あのとき、私と一緒に――?
そうして、今。
神谷さんは私の隣で、ふんわりと笑ってくれている。
「先生、さっきから黙っちゃって、どうされたんですか」
その笑顔があまりにも嬉しそうで、幸せそうで――
――それは眩暈がするほどに。
「…っ、先生っ?」
不意にきつく抱きしめると、戸惑ったのか小さく身じろいで、その後そっと私の背に両腕を回してやわらかく抱き留めてくれる。
「どうしたんですか、いきなり」
「だってあなたがあんまり幸せそうに笑うんだもの」
だって沖田先生といっしょだから、と。
呟くあなたが愛しくて、愛しくて、眩暈が止まらない。
ええ、ずっと一緒にいましょうね、と。あなたを閉じ込めた腕に力を籠めると、私の身体を縛る細い腕もぎゅうっと強く締まるのを感じた。
二人で、今生も縋り合って。
二人で、同じ記憶を繋いで。
そしてあなたの人生の先を、今度こそ何よりも幸せにするんだ。
<了>
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吐き出せないまま積もりに積もった妄想がいっぱいあって困っている。
吐き出せたらいいなぁと思っている。
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